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Webの舞台から教育格差への一撃。「スタディサプリ」のカウンターパンチは届くか(1/3)

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株式会社リクルートマーケティングパートナーズ
まなび事業本部 オンラインラーニング事業推進室
スタディサプリ プロデューサー
松尾 慎治氏

福岡県福岡市出身。2006年に株式会社リクルートへ入社。『HOT PEPPER』でのドブ板営業を経て、インターネットマーケティング局でWebサービスにおけるサイト構築や集客プロモーションなどを担当する。2010年には、進学事業本部にて「リクナビ進学」のサービス企画を担当。2011年より「受験サプリ(現在のスタディサプリ)」のサービス立ち上げを担当し、今に至る。

izuru株式会社
代表取締役
大塚 友広氏
(モデレータ)
群馬県富岡市出身。組織における「人」を起点としたブランドコンサルティング事業、今そこにある資源の最大化をはかりサービス、プロダクトを問わずブランドを開発していく事業の2つの事業を推進するizuru 株式会社の代表取締役。富岡市世界遺産まちづくり部観光マネージャーや文部科学省地の拠点事業委員、丸の内朝大学講師、高崎商科大学特別講師、上毛新聞者オピニオン21委員、慶應義塾大学SFC×米国大使館TOMODACHIアントレプレナーシップセミナー審査員などを歴任する。
著書、「ゴルフはインパクトの前後 30センチ!」は5万部を超えるベストセラー。

教育を価値のあるビジネスにしていく考え方とは?

「コンテンツすべて見放題」で予備校業界に風穴

大塚:はじめに、松尾さんご自身と主な業務内容についてご紹介ください。

松尾:私はもともと趣味も含めて「Web」の畑の人間で、教育への接点はありませんでした。しかし、だからこそフラットに、消費者視点で教育をどうしたらいいのかを捉えていきたいなと思っています。教育というと「NPO」や「CSR」といった色合いが強くなることもあるのですが、私自身はそうではなく、教育をどうやって価値のあるビジネスにしていくのか――というマーケティング視点に興味・関心があり、テクノロジーの力で教育の新しいビジネスを作りたいという想いから「スタディサプリ」(もともとは「受験サプリ」という名前でした)を担当しています。

スタディサプリは小学講座(中学年以上)、中学講座、高校講座、大学受験講座という段階別の受験・学習支援、またそれとは別に学生・社会人が英語の4技能(聞く・話す・読む・書く)を学べるオンライン完結型のサービスです。特徴は、ここに来たら最高に分かりやすい授業が学べること、ネット環境があればどこでも何回でも使えること、月額980円という低価格で提供していること、でしょうか。「人気講師の授業が受け放題」というのがサービスのメインで、現在は5教科18科目、1万本を超えるコンテンツをすべて見放題としています。

大塚:マーケットにおけるスタディサプリの存在感はいまどのようになっていますか?

松尾:おかげさまで会員は増えており、有料会員は2016年度で42万人ほどになりました。もともと5年間にわたって「受験サプリ」で高校生の領域をずっとやってきた関係から、高校生の会員が一番多い状況です。ちなみに、予備校の業界1位は東進ハイスクールさんなのですが、東進さんは会員数が13~14万人くらいだと聞いていますので、会員数だけに限ればおそらく業界で一番多いのではないでしょうか。最近は学校での導入もかなり増えていて、日本にある約5,000の高校のうち1,000校くらいにご導入いただいています。

現役志望校合格は全体の10%にも満たない

大塚:スタディサプリの根幹部分に関わってくる重要なテーマに、「教育格差」がありますよね?

松尾:そうなんです。サービス立ち上げの背景にあったのが「教育環境格差」でした。実は一般受験で大学に行きたいと思っている方のうち、塾や予備校に通っている方は3割強しかいなくて、残りの7割弱くらいの方は「経済的な問題」もしくは近くに予備校がないという「地域事情の問題」から予備校に通っていないという実態があります。今の学生さんは現役志向が強いので、高校3年生の春に憧れの志望校へそのまま入れる方は、私たちの試算だと全体の10%にも満たないんですよね。

地域という切り口で見てみると、地方出身者が大学に行く割合は都市部のそれよりも低い、全国の統一学力テストの正答率は地方より都市部のほうが高い、といった状況が明らかになっています。これは結局のところ、塾や予備校に通えているかどうかが要因になっている。そういった部分が少なからずあると考えています。「とんでもなく不平等な日本になってしまったな」というのが、立ち上げ時の率直な想いです。

大塚:私が通っていたのは群馬県の田舎にある公立高校(男子校)でしたが、「とにかく勉強を教える」「先生に付いてきなさい」といった感じで、本当に予備校みたいな学校でした。そういった、大学受験につながるような勉強を教えるというスタイルの学校はあまりないのですか?

松尾:全国約5,000の高校のうち、進学校と呼ばれるところは1,000校あるかないかくらい。しかも多くは都市部にあります。他の4,000校を私たちは「多様校」と呼んでいるのですが、そういった学校では専門学校や就職という進路を選択する学生も少なくありません。そうなると、大塚さんが通われていた高校のように徹底した受験指導をするのは難しいですよね。地方で、となるとなおさらです。

教育現場を悩ませる「フタコブラクダ」の正体

大塚:「本来は学校で補習すべきではないか」という意見もあります。松尾さんはどうお考えですか?

松尾:学校は基本的に一斉授業です。私が今講師としてお話をしているように、ある単元について先生が考えるクラスの平均的な難易度(理解度)に基づいて、1単元につき1回だけ「こうですよ」と教えています。皆さん、この「平均の層」の子の割合が一番多いと思っていませんか?実はそうではなく、「そんなことはもう知っている」という層と「分からない・付いていけない」という層に二極化しています。つまり、先生の教え方にちょうど合っている子たちの割合は非常に少ないのです。私たちは、この分布をフタコブラクダ型と呼んでいます。

塾や予備校に通っている学生は授業の内容を知っているので、平均的な授業はつまらない。分からない・付いていけない学生にとってはレベルが高いので、さらに置いていかれてしまう。そうして、どんどんこの差が開いてしまうのです。昔は正規分布で平均くらいの学力の学生が一番多かったのですが、現在はできる学生と付いていけない学生の差が開いてきており、先生が一人ひとりの状況に応じてサポートすることが難しい状況になっています。

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