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Webの舞台から教育格差への一撃。「スタディサプリ」のカウンターパンチは届くか(2/3)

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正解が分からない成熟社会で必要とされるには

ビジネスの難しさとキャズムへの危機感

松尾:「儲かっているか」と聞かれることはよくあります。認知度を高めるためのプロモーションや、1万本を超える授業動画を制作するため、初期に大型投資を行いましたが、現在は着実に会員も増えている状況です。社会課題を解決するため、980円という低価格で提供しているので、収益でも難しさはあります。とはいえ、はじめにお伝えしたように私はやはりNPOみたいな形でやりたいわけではなく、何とかビジネスとして成功させたいなと思っています。

大塚:サービスの紆余曲折の歴史を教えていただけますか?

松尾:最初のマネタイズの仕組みは、広告課金でした。しかし会社が求める水準までスケールさせることができず、「これ以上伸びないならやめたほうがいい」と言われて。でも、「いや、待ってください!」と当時のチームで抵抗したところから始まりました。次にやったのは、一講座5,000円の買い切り型システム。iTunesでアルバムを買うような感覚を目指しましたが、ずっと“閑古鳥”でしたね。理由で多かったのが、「Webで5,000円なんて払えません」というもの。なるほど、WebにはWebの相場があるんだな、と思い知らされました。

「Webで一講座5,000円は高い」と言われたので、もう「全部見放題で月額1,000円、1年使ってくれれば12,000円程度という落としどころで月額制に変えようと。当時私はシステム開発もやっていたのですが、そこでシステムを全部いじり直すという経験をしました。もうてんやわんやでしたが、半年後に980円に設定し、そこからようやく軌道に乗り始めた感じですね。細かく言うとそこからまた少し伸び悩みを感じているのですが、月額980円にしたことで学校からお問い合わせが入るようになりました。

皆さん、「キャズム」ってご存知でしょうか?これは、新製品・新技術が初期の市場からメインストリームの市場への移行を妨げる深い溝のことです。新しいサービスが出ると、“新しいもの好き”の方や流行に敏感な方は使ってくれるのですが、そこから先の一般層にはなかなか普及しません。その間にある溝を「キャズム」と言います。今回の場合、アーリーアダプターは受験サプリを使ってくれたものの、マジョリティー層に「やっぱり予備校がいい」と思われてしまうとキャズムに落ちてしまう。そこに落ちないようにマーケティングしないといけない――という危機感を持ちながら、現在までやってきました。

大塚:「伸び悩み」と言われましたが、知名度はかなり上がってきていると思います。今、決定的な伸び悩みの要因はどこにあると思いますか?

松尾:「名前は聞いたことあるけど、サービスの実態が分からない」と言われてしまうことがあります。もう一つは特に学校ではなく個人で使う場合なのですが、「どうせ三日坊主で続かないかもしれない」と。これは自学自習の教材ではよくある話ではあるのですが、「どうせ続かないでしょ」という感じで使ってもらえないのは大きな課題だと思っています。

入試も授業も、「右に倣え」では通用しない

大塚:日本の学校教育は今、大きな転換点にありますね。

松尾:はい、今後大きく変わっていくだろうと思っています。教育改革実践家の藤原和博さんという方に言わせれば、「山一証券がつぶれたとき(1997年)に時代は変わった」と。どういうことかというと、戦後の日本では「右に倣え」で常にある種の正解がありました。経済が右肩上がりで成長していたので、ある程度の型にはめてビジネスを仕組んでいけば成功できたのです。人材面でも、5教科の基礎をもってとにかく速く情報処理ができる人が社会では重宝されてきました。

しかし、まさに先ほどのマネタイズの話ではないですが、成熟社会になって正解がなかなか分からなくなってきました。それに合わせて、答えのあるジグソーパズルを速く解ける人材ではなく、いろいろな可能性や課題をつなぎ合わせて考え、それぞれの個別解がある中でベストな選択をできる人材が活躍できる世の中になってきているのだと思います。教育という領域の最たるアウトカム(成果)が社会で活躍できる人材を輩出するというものであるとするならば、この社会のステージ変化に適応できるように教育そのものを変えなければいけないと藤原さんはおっしゃっていて、私たちもそう思っています。

大塚:今日、教育改革を叫ぶ声が強くなっていますが、英・国・数・社・理の基礎教育の重要性に変わりはないと思います。教育改革についてはどうお考えですか?

松尾:そうした基礎教育を引き出すミュニケーション力やITリテラシー、クリティカル・シンキングなどが必要だと考えられており、加えてディベートやグループワークにおけるリーダーシップなどを育てておくことが大事なんじゃないかと言われているようですね。これに合わせて、実は文科省が2020年から入試のやり方を変えようとしています。今はセンター試験も2次試験も基本的にはペーパーで、「答えのあるジグソーパズルをいかに速く解くか」が問われていますが、ここを変えようとしているわけです。

そういう「5教科が速く解ける力」ではなく、自分で表現ができるか、みんなで議論できるか、大学が求めている人材論に適した個性を持っているか、といったところで判断するようなコンセプトに変わろうとしています。私たちもそれに合わせてコンテンツを増やそうとしており、例えばスティーブ・ジョブズ氏のプレゼンを毎回監修していたハーバード大学のガー・レイノルズ教授にプレゼンの授業や、ここ数年話題のマイケル・サンデル教授に道徳の話をしてもらう授業などを提供しています。

大塚:「受験」の枠にとどまらない、将来につながるとてもおもしろそうな授業ですね。

松尾:私たちはこれまで、「教育の格差を解消すること」
を大事にしながらやってきたのですが、それはある程度かないつつある現状、これからは日本の教育の未来を引っ張っていきたいなと思っています。ちょっと偉そうな感じになってしまいますが、「志は高く」ですね。

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